ビンゴにビールに、ふらり旅
カイ·2026年8月8日

きっかけは蒲田だった。東京の大田区にある、派手さとは無縁の、どこか昭和の香りが残る街だ。特に用事があったわけじゃない。降りたことのない駅でふらりと降りて、あてもなく歩いてみる、そんな日曜日の午後だった。一時間ほど歩き回って疲れ果て、とにかく座って、何か食べて、一杯飲める場所を探していた。そこで見つけたのが「HUB」という名のパブ。あまりにストレートな名前が、かえって愛らしく感じられた。店内は濃い色の木のテーブルと床、スモークでくすんだように塗られた壁。本当は全面禁煙の店なのに、ロンドンの雨の夜をそのまま室内に再現しようとしたような空間だった。メニューにはパイントビール、ウイスキーの数々、そしてパブの定番料理。僕はHUBだけでしか飲めないというHUBエールと、一口サイズのフィッシュアンドチップスを注文した。
会計のとき、店員が「メンバーカードはいかがですか、500円です」と言った。一瞬、断ろうと思った。もう二度と来ないかもしれない店のカードに500円? でも彼女はこちらの表情を読んだのか、にっこり笑って特典を並べ始めた。割引、誕生日クーポン、デジタルスタンプ、そしてアプリの中にはビンゴゲームもあるという。いかにも何かの宣伝文句みたいだ。普段の僕なら絶対にスルーするやつだ。でも、彼女の説明する姿があまりに楽しそうで、気がつけば小銭を差し出していた。ドリンクを受け取り、隅のテーブルに落ち着いて、ごく平凡な一時間を過ごした。エールは美味しく、フィッシュアンドチップスはカリッと揚がっていて、作り物の古びた壁は不思議とちゃんと役割を果たしていた。店を出るころには、いいパブがそうであるべきように、歩き疲れていたことをすっかり忘れていた。
帰りの電車でアプリを開き、スタンプのページをタップする。そこには小さなイラストが一つ。あの晩、あのHUBに、たしかに僕がいたことを示す印だった。その下の数字は「1 / 101」。最初に思ったのは「店舗数、多くない?」だった。そしてマップを開いたとき、ただの好奇心が、なんだかもっと別のものに変わり始めた。
マップ上の店舗を示すピンは東京に密集していたけれど、関西にも点々とあり、福岡にもいくつか、そしてはるか北の仙台にまで。これはただのスタンプカードじゃない。宝探しだ。ロイヤルティプログラムの皮をかぶった、全国規模の宝探しゲームだ。ビンゴ機能がさらにそれに輪をかける。定期的に更新されるビンゴボード。マス目の一つひとつが、別の店舗を指している。指定された店で注文すればマスが埋まり、縦横斜めのいずれか三つが揃えば景品がもらえる。割引券、無料のスナック、あるいはHUBとその洗練された姉妹ブランド、シンプルに「82」という名のバーで使えるデジタル通貨。
こんなの、どうせ続かないだろうと思っていた。でも数日後、ふと暇な夜があって、気がつけばまたマップを開いていた。最寄り駅の近くにもHUBがある。とりあえず一杯飲んで、二つ目のスタンプを集めて、それで飽きるかどうか試してみよう。飽きなかった。三度目、四度目と足を運ぶうちに、いつのまにか、自分でも気づかないうちに、それは「始まって」いた。
最初は小さく始めた。蒲田のあの夜から数週間、暇な晩があるたびにマップを開くようになった。新宿で友達と会う予定があるなら、東口の近くにHUBがある。30分早く着いて、ハーフパイントを頼み、スタンプを一つ増やす。雨の火曜日で何の予定もなければ、行ったことのない吉祥寺のHUBを選び、カウンターに座って一時間後に新しいスタンプとほろよい気分で店を出る。スタンプが二つ、五つ、十と増えるうちに、なんだか妙な満足感が育っていった。誰も知らない、自分だけのゲームを進めているような感覚。
スタンプそのものの魅力にも気づき始めた。よく見ると、一つとして同じデザインがない。それぞれがその街への小さなラブレターなのだ。上野のスタンプには、HUBのドラゴンのようなマスコットがビールを持ち、背景にパンダが描かれている。渋谷にはハチ公。店から徒歩数分の場所に立つ、忠犬の像だ。浅草には提灯と扇子。誰かがちゃんと座って、これらの絵を描いたのだ。その街を知っていて、その街を好きな誰かが。これはただの購入証明じゃない。小さな、手のひらサイズのお土産なのだ。
三十個目を過ぎたあたりから、ビンゴボードはもはや背景ではなくなった。新しいボードが配信されるたび、真っ先にチェックする。偶然すでに二マス埋まっていたら、三つ目は「任務」になる。どの駅のどの出口の近くにHUBがあるか、金曜の夜に混むのはどこか、一人で行くならどのカウンター席が一番落ち着くか。そういうことを自然と覚えていった。大げさな話じゃない。でも、これがなかったらスマホをだらだら眺めて終わっていたかもしれない夜に、ちゃんと輪郭を与えてくれた。
やがて、旅の計画にもスタンプが顔を出すようになった。友達が「週末、大阪行かない?」と言ったとき、真っ先に頭に浮かんだのは、大阪城でもなく、たこ焼きでもなく「二日で関西のHUB、何軒回れるか」だった。自分でもちょっとどうかと思う。でも実際、楽しかった。難波、梅田、心斎橋とルートを組み、それぞれの店で違うものを頼んだ。エール、フライドチキン、ハイボール。スタンプは順調に積み上がった。でもそれ以上に、どの店も観光の合間の休憩場所になってくれた。スタンプが旅のリズムをつくり、目的地と目的地のあいだの、小さな句読点のような存在になった。
スタンプのために一番遠くまで行ったのは、札幌のすすきのだった。もともと冬の北海道に行く予定があった。雪まつりと海の幸、みんなが二月の北海道を目指す理由はひと通りそろっていた。でも二晩目、気温がマイナス十度を下回り雪がしんしんと降るなか、僕はすすきのを歩いてHUBを探していた。店内は暖かく、たくさんの人でにぎわっていて、そして蒲田で嗅いだのと同じ匂いがした。あの夜のスタンプには、雪に覆われたすすきのの風景が描かれている。今でも一番のお気に入りのひとつだ。あのスタンプを見るたびに思い出す。凍えるような道のり、店に入った瞬間に曇ったメガネ、雪のなかを一時間歩いたあとに食べた、ありえないほど美味しいフィッシュアンドチップスのこと。
どのスタンプにも、物語がくっついている。池袋のスタンプは、カウンターで隣になった元教師のおじいさんを思い出させる。その人は十五年、毎週木曜に同じHUBに通っていると言っていた。横浜のスタンプには、ラグビーの試合を名前も知らない人たちと一緒に観て、まるで昔からの仲間みたいに画面に向かって叫んだ夜が刻まれている。すすきののスタンプは、雪とぬくもり、そして日本の端っこで見つけた、懐かしいパブの不思議な安心感を抱えている。
蒲田での最初の夜から、店舗数は109に増え、僕のスタンプは90を超えた。残りのうちいくつかは、あまり行く機会のない場所にある。あと少しは、まだ訪れたことのない街にある。それがこの仕組みの静かなる真髄だと思う。いくつかのスタンプは、つねに少しだけ手の届かないところにある。「名古屋かあ、まだ行ったことないなあ」と思わせるには十分な距離に。
マーケティングとして見れば、とてもよくできている。500円の入会金。遊び心のあるデジタルコレクション。そして、決して押しつけがましくなく、じんわりと人を探索へと誘う仕掛け。蒲田での一度きりの立ち寄りは、いつしか趣味になり、ありふれた旅にささやかな意味の層を重ねてくれるようになった。たぶん素通りしていただろう街角に寄り道する理由をくれて、知らない人との会話を生んでくれて、見過ごしていた細部に目を向けさせてくれた。
もしHUBや82に行ったことがないなら、一度ふらりと入ってみてほしい。新しい趣味を探しているなら、気軽で楽しい、週末をちょっと彩るものがほしいなら。あるいは単に、冷えたビールと悪くないフィッシュアンドチップスを求めているだけでも。どちらにせよ、店に入って何か頼み、アプリをダウンロードしてみてほしい。数ヶ月後には、まだ見ぬ街への旅を計画しながら、小さなデジタルスタンプを追いかけている自分に気づくかもしれない。そしてその途中で、スタンプは最初から目的なんかじゃなかったんだと、たぶん思い出すはずだ。
この記事はAIの助けを借りて作成され、人間によって編集されました


